LAST

7月3日、南仏Châteauvallonにて公演でした
6月はクリエーションがあったので、実に1ヶ月ぶりの公演
公開リハーサルとゲネプロがあったから
お客様に見てもらう機会はあったけれども
やっぱり舞台と観客席という
ふたつの場所と、その距離が持つ雰囲気は別物だ


今回の演目は『WAM』と『Cantata
わりと定番の組み合わせだけれど
どちらも今シーズンは上演回数が少なかった
特に『Cantata』は毎シーズン結構な回数をこなすけれど
今年はフルカンパニーでは3度程
その代わりに長いバージョンの『Serenata』を2度程やった
どちらも思い入れの深い作品
今回の公演が今シーズン最後の上演だった
すなわち私や他の退団組にとっては最後の最後だった
せめて今シーズンの最終公演の演目だったら良かったのに
最後だと認めたくない気持ちと
最後なんだと納得してしまった気持ちで
なかなか切ないものだった


『WAM』はAterballettoに初めて出会った作品だ
2005年の初夏にロッテルダムから学校公演でレッジォに来て
今は私にとってもお馴染みのValli劇場で見た
なんで今までこんなカンパニーを知らなかったんだろう
見ている間、そんなふうに思っていた
ロッテルダムに戻ってからも学校でAter話に盛り上がったのを覚えてる
その翌日にスタジオ・Fonderiaで学校公演をした
その時はまさか毎日ここで過ごす事になるとは想像もしなかった
公演を見たTeatro Valliで踊る事になるとは思わなかった


『Cantata』はマウロのマスターピース
この4年間で一番踊った回数の多い作品だと思う
私にとって、入団した最初のシーズンにソロをもらった特別な作品
私にとって唯一、早い時期から常にやってきたソリストパート
その分、思い入れも相当強くて
おこがましいけど、私のソロだって思ってしまう
昨日、最後のGirasole踊っている間は不思議な感覚だった


Châteauvallonは野外劇場で気持ちが良かった
暑過ぎず寒過ぎず、夜に踊るにも程よい爽やかな風が吹いていて
劇場の空間を囲む樹々が風に吹かれて静かに音を立てる
『Cantata』は古びた服にボサボサの髪
風に煽られてなびくスカートと髪が綺麗だった
作品中ダンサー全員、舞台上に残って
踊る人達を囲む状態で座ってる
時折、観客気分に陥ってしまいそうだったけれど
みんなの踊る姿を見ていて心地良かった
むしろ観客席側から見えない角度で見れるのがいつも好きだった
私のソロの後のトリオを踊るステファニアの表情や
中越しに見る2組のカップルのクアルテットの横顔とか
私の個人的なお気に入りのシーンがそれぞれのパートにある
きっとみんなそれぞれあるんだと思う


Girasoleを踊る時、いつも怖かった
お祭り騒ぎの様なシーンの多い作品だけど
タンブリンひとつに歌を合わせたクアルテットの後に
静かに舞台の真ん中へ歩み出て、ギターの音色が流れ始める
クアルテットが作り出した緊張感残る空間に
広い舞台に一人立つのが、更に私を緊張させる


確かな手応えというのは感じなかった
心の底では、絶対に良く踊りたいと思っていたけど
気張ってる感じもなく、落ち着いて始められた
静かなギターと歌声が聞こえ始め
スローモーションになった
常に自分の目の前にある私の手が
照明に照らされて舞台に映る自分の影が
まるで写真か何かを見る様に目に飛び込んできて
頭を動かす度に流れる長い髪がくっきりと秒刻みに見えるよう
妙に冷静なのか、極度の緊張なのか・・・
速い動きにいつも追いつこうと踊っていたと思うのに
ひとつひとつの動きに対して
いつもの倍の長さの時間がある様に感じた
鋭敏な感覚とでも言うのだろうか


そんな不思議な感覚の中で3分という時間は過ぎ
ソロが終わり、トリオの3人が私の近くに駆けつける
大抵は観客も沈黙したまま、ソロからトリオの流れを見守るけれど
今回のお客様はソロが終わると同時に拍手と歓声をくれた
その瞬間にゆっくりと流れていた時間が
突然、元の時間の早さに引き戻された様だった
私の手を取ってから離れていくステファニア
いつもより時間をかけていた
手を離す前にぎゅっと力を込めて握ってきた
そこでやっと、初めて最後の公演なんだって実感した
彼女にとっても長年やってきたこのMezanotteのトリオは最後なんだ


3年くらい前にツアー先のホテルでステファニアが言ってきた
「トリオの最中、舞台の斜め前を見るほんの一瞬
今まではただ空間を見ていただけだったけど
キハがソロをやる様になってから
貴女が座ってる方に向かって
貴女の目を見る様になったんだよ
その方がそこに物語がありそうで素敵じゃない?」
Girasoleは前任者がいる
私の前に3人の女性が踊っていて
その内のひとりが初演以来、第一キャストとして主に踊っていた
でも、私が踊る様になってからと言ってくれた事が
私が彼女のちょっとした仕草を変えた事が嬉しかった
そのアイコンタクトの瞬間は私のお気に入りのシーンなんだ
彼女の何とも言えない切ない表情が一瞬私に向けられて
次の瞬間に男性にリフトされて舞台の反対側に移る
そんなふうに自然と作り上げてきた瞬間が作品になってるんだ
もう踊る事がなくなるのかと思うと悲しくて堪らない


フィナーレはお祭り騒ぎ同然で悲しさも吹き飛ぶ
ただただ踊る事と音楽を楽しめる
みんなの表情も明るい
公演が終わった後もフィナーレの勢いが残っていて
みんな晴れ晴れとした良い顔をしていた
マウロが「最高の公演だった」とみんなに声をかけてくれた


「細長くて大きな手と長い腕、長い髪が恋しくなるよ
Girasoleの雰囲気にピッタリと合っていた
今まで見てきた中で一番良い踊りをしてたよ」
とマウロが言って抱きしめてくれた


来シーズン残るみんなが
「最高に良かった」
「息が止まりそうなくらいすごかったよ」
「キハ以外が踊るのは想像できない」
そんなふうに言ってくれて、強く抱きしめてくれて
思わず涙が溢れてしまいそうだったけど
嬉しさの方が勝っていた


でも、せめて今シーズン最後の公演だったら良かったのにな


残り4公演
次回はエウジェニオの初演『Casanova』
その後はマウロの『Terra』が3回
オハッドの『Minus 7』が『Terra』と一緒に2回


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